入ってすぐに足を止めた娘に、シャドーは訝しげに声をかけた。


ファイナははっとして、なんでもない、と答えて足を進める。

無理やり浮かべた笑顔がぎこちなさすぎると、自分でもわかって泣きそうになった。


ファイナがテーブルによると、四人は席を立ち、父の指示でまず自己紹介をした。



「初めまして、ファイナ様」



まずはじめ。茶髪の紳士が右手をとりその甲に唇を寄せたので、ファイナは内心でため息をついた。

別に特別嫌な感情があったわけではないが、そういった行為をされるのに慣れていなかったのだ。
失礼がないよう笑顔で応じるのは、破談になろうと、そのせいで家に迷惑をかけるつもりはないからだった。


言葉を返しながら、知った知識をあらう。


茶髪の紳士は、ネビル・ファグネウス子爵。年齢は二十一。
領地は、ここから少し離れた帝国一の河川・ニナイ川に面する、農業に恵まれた土地だ。
家の格は確かに侯爵家より劣るとはいえ、決して悪くない家だ。


二人目、金髪碧眼の青年は、ハリー・ティグルズ男爵。
海に面した交易に優れた土地を治めている。家格は低いが、交易に優れているだけあって人が集まる土地柄であるし、興味がひかれないまでもない。
父の話では、王室でも目に留まりつつあるらしい。下品な言い方をすれば“有望株”、選べば“先物買い”になるわけだ。
ちなみに今日身に纏ってきた装飾品は、隣国のものらしい。


三人目、異国の血が入っているらしい男性、シン・ユーリッヒ子爵。
やはり異国の血が入っていて、母親が数年前に属国となった国の出身らしい。
武門に優れた家柄で、身内の大半が軍に属しているそうだ。彼自身も今は王室の近衛騎士団に所属し、第二王子の騎士として仕えているそうだ。



そして。