「ずっと、まさかとは思ってたけどさ、」
「………」
「…チアキって、幽霊とかじゃないよね。」
「……は?」
いつもとなんら変わることのない昼下がり。
俺がいま読んでいるのは夏目漱石の小説。
いつもなら半時間ほどなにも言わずに黙っている彼女だが、今日は珍しく口を開いた。と思えばこれだ。
彼女と出会ってから約1か月がたち、
この場所に来るのは
俺の日常になりかけている。
「…すみませんが、証拠といっても何か出せるわけじゃないし、幽霊みたことないから分かんないんですけど、たぶん、俺は幽霊じゃないと思う。」
「あぁ。そうよね、ごめん」
いつものように曖昧に言葉を返しては
誤解が生まれる事は目に見えていた。
だからしっかりと説明したつもり…、
なのだが…。
なぜ彼女はそんな浮かない表情をしているのだろう。