私が女の先輩からにらまれている理由のひとつはこれ。



私が居残りさせられる確率が高いからなんだ。





でも、それは本当に私が下手くそだからでありまして。



それなのに、先輩方は……



「あの子、速水君と二人きりになりたいからまた失敗して」


なんておっしゃるんですよ。





決してそんな不純な気持ちで部活に来ているわけではありません。








「おい、今日のパート全然できてなかったぞ」




低い声の速水先輩はトランペットを磨きながら私を見る。






太一兄ちゃんは、こんな低い声じゃなかった。



私の知らない10年間、どんな風に過ごしてきたんだろう。



太一兄ちゃんの成長を、ずっとそばで見ていたかった。







「おい、聞いてる?」



「あ、はい。聞いております」



「つ~か、二人のときは敬語じゃなくて良くね?」




なんて嬉しいことを言ってくださるのでしょう。






テンションの上がった私は、また言ってしまう。





「マジですか?太一兄ちゃん!」




怒った顔の速水先輩が見たいのです。



私、ドMかもしれない。






「は?誰それ」






速水先輩は、眉間にしわを寄せて私をにらむ。



あ~んたまらない。



もっとにらんでください。