時折、涼しげな風が私の頬を撫でるようになり、空を見上げながら、今年の秋は急ぎ足だなと思った。
 
 傷ついた心も幾分か癒され、二度目の恋は心の奥に封印されつつ静かに眠りについていた。

 駅に着くと、改札でまごつく姿が目に止まった。何やら改札口の機械を相手に戸惑っているかのように見える。横を過ぎる人の群れ達は、それを単なる物であるかのように上手くすり抜けるだけで、誰一人として立ち止まる素振りさえ無かった。以前の私であれば、きっとあの群れ達に紛れて通り過ぎたことであろう。私は、自分の人間としての愚かさに苦笑した。 

「どうかされましたか?」 男性はぎょっとした表情を私に向けたが、それはすぐに笑顔に変わり、キップを入れるところが分からないと恥ずかしそうに言った。 
「キップでしたら3番目より向こうの改札口ですね。こっちの改札は定期専用なんですよ」 
 男性は恐縮するように背中を丸めて改札を抜けて行くと、遠くで振り向き頭を下げた。私は、手を振りそれを見送った。