〔完〕 うち、なでしこになるんだから

「珠理、こっちに来い。」

 思い出の泡が、一瞬にして全部壊れた。
 悪魔が壊したのではない。監督が珠理を現実に引き戻すために壊したんだ。

 気がつけば、チーム全員黙り込んでいる。

「はい。」

 珠理は監督についていく。

 勝手に体が動いた。本当は、怖いから動きたくない。

 
――きっと、うちに対して怒っているんだな。――

 覚悟を決める。
 これは、怒られるんだと。
 そう思ったら、急に膝ががくりと落ちそうになった。


 ベンチから五メートルほどゴールよりに離れて、

「珠理。」

 低く鋭く、珠理の耳に刺す。

「はい。」

 返事するだけで精一杯。
 この雰囲気におびえているから。


 
――分かってたけど、やっぱ怖い。――

 冷や汗が止まらない。冷や汗のせいで、体がどんどん冷え、縮こまってくる。
 本当はその場に座り込みたいけど、監督に失礼だから経ち続ける。
 立ち続けようとすると、震えが止まらない。