下では入り口に仁王立ちしているマリアがいて、その前にエルシルド様が立っていた。

「なぜ、エルシルド様は血統も身分も低いエレーナを妻と主張するのですか?」
「彼女を昨夜、妻にしたからだ」

 エルシルド様がはっきりと断言すると、周りのみんなからどよめきが走る。

「では、なぜエレーナは証明書に署名する前にこの寮に戻ってきたのです。しかも、たった1人で!」
「彼女が深く眠っていると思って証明書をもらいに行っている間、彼女は私がいなかったので誤解してこっちに戻ってきてしまっただけだ。彼女に会わせてくれればその誤解も解ける!」

 エルシルド様の言葉に心臓が止まりそうになる。
 私が起きた時、エルシルド様は横にはいなかった。
 それは、私と顔を合わせるのが嫌なのかと思っていたが、まさか証明書をもらいに行っていたとは・・・。

 私が部屋から出てきたことによって騒がしくなったせいで、エルシルド様が顔を上げて私に気づいた。

「エレーナ!」

 私を見上げるエルシルド様は少し疲れたような顔をしている。
 この押し問答はどれくらい続いていたのだろうか?

「私の妻になってくれ!」

 潔いほどストレートな告白。
 しかし、私のような者を妻にしたら、エルシルド様が苦労することになる。

 一族からの中傷。
 出世はもう見込めないだろう。
 優良な子孫を残すことは出来ない。

 私は引き裂かれるような胸の痛みを抑えつつ首を横に振るしかなかった。

「色々な障害があるのはわかっている。しかし、君を初めて見た時から君しか愛せなくなっているんだ! 悲しませたり苦しめたりするかもしれない。だが、一生君に尽くし君しか愛さないと誓う! だからどうか私の胸に飛び込んで来てくれ! 君と初めて会った時のように!」

 究極の求愛。
 誰もが憧れる相手だ。

 だからと言ってエルシルド様の求愛を素直に受け入れるには勇気が出なかった・・・。