疲れてぐっすりと眠っていたらしい。
 ドアを何度も叩く音にやっと目が覚める。

 起きてドアを開けるとオパルが興奮した様子で部屋に飛び込んできた。

「どうしたのオパル?」
「どうしたって、蒼の騎士副団長のエルシルド様がガーディアンと揉めてるのよ! しかも貴女のことで!」
「ええっ?」

 オパルの説明によれば、突然エルシルド様がやって来て私に会わせて欲しいと申し出たのだが、対応にあたったガーディアンがそれをすげなく却下したらしい。
 しかしエルシルド様は私を妻だと言い、妻に会う権利を主張した。
 それについてもガーディアンは聞いてないと却下し、その主張が正しいのであれば証明書を見せるように迫った。

 証明書は神殿より発行された書類で、それに両方の署名と捺印をすればつがいとして認証される。
 当然書いた記憶はないので、証明書なんてないはずだ。

 証明書を求めるガーディアンに込み入った事情によりまだ署名が終わってないと主張するエルシルド様を、ガーディアンは頑なに主張を却下し続け、その騒ぎが人から人へ伝わり、今ではその騒ぎを見ようと廊下は見物者で鈴なり状態らしい・

「あなた、本当にエルシルド様とつがいになったの?」

 そんな質問に眩暈が起こる。

「そんなわけないでしょ! 相手はあのエルシルド様だよ?」
「そう・・・だよね・・・」

 そんなわけはない。
 私とエルシルド様とでは身分も血統も大きな差があるのだ。

 私がオパルと一緒に廊下に出たとたん。
 辺りが一気に騒がしくなった。

「あの子が?」
「嘘でしょ!」

 次々と辺りから驚いたような声が聞こえてくる。

 驚いているのは私の方だ。
 なぜエルシルド様は私を妻だと主張するのだろうか?
 たった一夜の事情だ。
 それについて、責任を取るほど罪悪感を感じるものだのだろうか?

「エレーナ、貴女、エルシルド様とつがいになったの?」

 隣の部屋のマギーが私に質問する。

「ちがうわ」
「じゃあ、尻尾を絡めたりしてないのね?」

 尻尾を絡めたかどうかというのは、情を交わしたかどうか聞かれているのだ。
 非常に答えたくない質問だったので、それを無視して窓から外を覗いた。