春が来た。
 それは季節の春であり、私たちの恋の春でもある。

 つまり、発情期だ。

 私達はある一定の年齢になると発情期が訪れる。
 発情期には個人差があり、早熟の子は16歳から、遅い人は30歳過ぎって人もいた。

 私の名前はエレーナ・フォンデル。
 年は20歳。
 ちなみに私には、つがいの相手もいないし、当然、発情期もまだである。

 一般的に、発情期が来て恋の相手を探す。
 でも私の場合、発情期が来る前に恋をしてしまった。

 相手は蒼の聖騎士団、副団長のエルシルド様。

 騎士団は2つあり、1つが蒼。
 もう1つが緋。

 蒼の騎士団は血統重視されており、血統のいい人物しか入ることが出来ない。
 逆に緋の騎士団は実力重視になっており、力とそれなりの人格者であれば入ることが出来る。

 団長、副団長となれば、頂点に立つ者としてその要素が高く求められた。
 つまり、副団長のエルシルド様はこの国で王族以外の血統では、2番目に血統がいいということなのだ。
 王宮の出入りを許されているとはいえ、私はメイド。
 しかも掃除が仕事のメイドである。

 血統は下級の下級。
 血統なんてあってないようなものだ。

 私がエルシルド様に恋をしたところで、とても相手にしてもらえるような身分ではない。
 恋をしても初めから報われないとわかっている恋だった。

 この国の者はメスより、オスの方が見目が麗しい。

 春が来て、オスがメスに求愛する。
 そのせいか、オスの方が華やかだ。

 そんな華やかなオスの中でもエルシルド様の容姿は群を抜いている。
 美しい髪は白。
 白い肌に繊細な影を落とす長い睫は長く、美しさを際立たせる。
 騎士とは思えないやさしい碧の瞳。
 すらっとした体躯。

 何処を見ても美丈夫としかいえない姿は、血統の良さもあって、メスの中ではダントツ人気が高い。

 けれど、26歳になってもエルシルド様の春は訪れず、誰も彼もが彼の春を待っていた。

 そんなエルシルド様にも、ついに春が訪れた。
 そういう噂が王宮を巡ったのは3日ほど前。
 王宮に勤めるメイドの寮では、その噂でもちきりだ。
 どこにいてもその噂話が聞ける。

 私はふと今拭いている手を止め、ガラスの向こうに見える道を見下ろした。