「海から岡村のこと聞いた。難聴なんだって?」 「うん」 「吹奏楽してたらしいな」 「サックスだよ。流星と一緒だったの」 「へぇ。聞いてみてぇなぁ」 「私も、ずっと聞きたいと思ってた。でも――」 頭を流星の背中に押しつけると、懐かしい流星の匂いがした。 「音が聞こえなくなったら、伊月、吹けないでしょ」 少し、視界が涙でぼやけた。 伊月は私みたいに吹奏楽から逃げたんじゃない。 やめるという選択肢しかなかったんだ。