「伊月」 傘を伊月の上に持って行くと、目の前の頭が顔をあげた。 こんなに近くで伊月を見るのは、階段で転けたとき以来だ。 「涼」 私の声を呼んだ声は、やっぱり伊月独特の優しい声だった。 その声をまた、こんなに近くで聞けるなんて、夢みたい。 伊月は、自分が座っている隣をタオルでふいて、私に「座って?」と言った。 私はそこに静かに腰かけた。 傘をどうしようか迷った末、たたんでベンチにかけた。