そしたら、岩本さんの無表情がフッと緩んだ。


その穏やかさに、また胸が高鳴った。



カッコー、カッコー……。

視覚障害者用の音響が鳴り出した。



「じゃあね、お疲れ」

緩やかに微笑んでそう言って、岩本さんは前に向き直ると横断歩道を渡り始めた。


呆気にとられて、ぼんやりとその背中を眺めていた。



「お疲れさまでした」

岩本さんが渡りきったところで、ボソリ、小さな声で呟いてみる。


そんなのもちろん、彼に届くはずもなく。岩本さんは振り返ることなく、その先の細い道へと入って行った。



本当に、不思議な人。

何を考えているのかさっぱりわからない。



だから余計に――

惹かれてしまうんだ。



切なくて苦しい。こうして会話を交わしただけで幸せだったりするから、尚更切ない。


悔しいなぁ、もう……。