「梨乃ちゃん!」

案の定、呼び止められて渋々足を止める。


心の中だけで『あー、もう!』と叫んだ。



おずおずと振り返れば、愛想のいい笑顔で軽やかに駆け寄って来る岩本さんが、嫌でも視界に入る。

その笑顔が私には重い……。



目の前まで来て立ち止まり、

「良かった、やっと会えた」

と。相変わらず必要以上に近いんだ。そんなことでさえ苦になって仕方がない。



失礼極まりない話だけど、私はこの人が苦手だ。

不思議なことに、無愛想で感じ悪くてムカつくことばっかり言う岩本さんよりも、ずっと苦手。



「はぁ……」

溜息のような相槌しか出て来なくて。けれど、そんなことに気に留める様子なんか見せず、岩本さんは笑顔のまま続けた。


「明日、仕事早く終われそうなんだ。だから明日なんてどうかなぁと思って。ほら、前に約束した食事。梨乃ちゃんの予定は?」