「どうしてあんなこと……。甲本さんが私のこと好きなんて……そんな訳ないじゃないですか」


階段を下りながら、岩本さんに異論をぶつけた。



私を見下げた岩本さんは、ふっと目を細めて可笑しそうに笑う。


「アイツ、テンパって本音だだ漏れだったでしょ。気付かなかった?」


「本音は本音だろうけど、私のことが好きなんて、ひとっこと(一言)も出て来ませんでした」


「世の中には、ああいう愛し方しかできない不器用なヤツも居るんです」


真面目くさった口調で答えて、けれどすぐ、岩本さんは悪戯っぽく笑って見せた。



「正々堂々くどかれたって、あんなヤツ……御免こうむります」

冗談めかして返せば、

「まぁそれも梨乃の勝手。好きにすればいいよ?」

同じく軽い感じの言葉が返ってきた。


けれどそれは、『俺には関係ない』と言われているみたいで。

胸にチクンと刺すような痛みを覚えた。