「何が言いたい?」

挑発的に凄んで見せる甲本さんに、

「言いたいこと、そのまま言ったつもりだけど?」

至って平静なまま、岩本さんは返した。



「アドバイスしてやろうか?」


「はっ? 何の?」


岩本さんの唐突な言葉に、甲本さんは失笑を漏らす。けれど構わず、岩本さんは淡々と続けた。


「くどくんなら正々堂々とやれよ。卑怯な手使ったら、逆効果だ」


「何が逆効果だよ? 意味わかんねぇわ」


「だってお前――

――梨乃のことが好きなんだろ?」



そんな訳ないじゃない!

思わずそう叫びたくなったけど、乾ききった喉は鳴らなかった。



「お前、何血迷ったこと言ってんだよ? バカじゃねぇの?」


「バカはお互いさまだろ」


意味深な言葉を口にしてすぐ、岩本さんは振り返った。



私と目が合うと満足そうに微笑んで、

「梨乃、戻ろう」

囁くように言って私の腕を取る。そうして階段の方向へ歩き出した。