あたしは、頭を下げた。


「迷子になっちゃったんで、道を教えてください」



千影くんは、一旦フリーズしたあと……。


ぷぷぷ、と吹き出した。



「いいよ、一緒に行こう。

どこまで送ればいい?」



引っ越してきたばかりの人に、道案内をさせるなんて……。


あたしは恥ずかしさと、

千影くんと知り合いになれた事の、たなぼた的幸運で。


千影くんを、どうして『前から知っている』と、思ったのか。


さっき見た、不思議な光景は一体、何だったのか。


考える事を、忘れてしまった。





【ひなた】と、【千影】



この名前だけで、


思い出さなければ、いけなかったのに……。