冗談っぽく、彼は笑った。


どうやら、本当に怒ってはないみたい。


あたしは少し、ホッとした。



「最近って?転入なの?」


「うん。

デザイン科の佐藤。

よろしくね」


「佐藤……なに君?」


「……千の影って書いて、千影【ちかげ】」


「ちかげ……」



その名前を、何度も頭でリフレインさせる。


頭のどこかに引っかかるのに、

それがどこか、相変わらずわからない。



「あ、あたしは西村ひなた。

ひらがなで、ひなた」


「だから、知ってるって。

掲示板見たから」


「あ、そうか……」


「もしかしてアンタ、天然?」



佐藤君は、くすくすと笑った。


笑うと、口角がぐっと上がって、

大きな目とあいまって、猫みたい。



「あの……佐藤君」


「千影でいいよ」


「千影、くん……」


「なに?」