どうしよう、なんて言いながら。
あたしの気持ちは、もうほとんど決まっていた。
恋愛には臆病で、消極的なあたしだけど。
涼介がもし、主役に受かったら。
あたしは彼の、カノジョになれる……。
昔から好きだった、涼介の彼女になれる。
そうなったら、あの狭い倉庫での練習は、成立するのかな。
あたしはピッチパイプをくわえる、涼介の薄い唇を思い出した。
あんな狭いところに二人きりになったら……。
き、キスとか、それ以上とか……されちゃったりして。
うわあああ、ダメだ!
ドキドキしてきた。
これじゃオーディション前日に、心臓発作で死んじゃう。
これ以上甘い妄想に囚われる前に、家に帰らなきゃ。
あたしはどうしてもにやけてしまう頬を自分で叩きながら、帰路についた。



