――菅坂は、早死にの家系。

 それが、さよこ叔母の口癖。

 彼女の言葉を証明するかのように、物心ついたときには、しよりの父親はいなかった。

 若くして夫を亡くした妹を、俺たちの両親は気の毒に思ったんだろう。

 彼らの熱烈な誘いに根負けして、さよこ叔母は婚家から、生まれ育った家に戻ったらしい。

 まるで、自分たちの死を見越して、我が子の親代わりを呼び寄せたみたいだ、と、ある程度成長した俺は、思ったりもする。

 『誘ったひとたちがさっさと一抜けするなんて、詐欺よね』と云うのが、酔ったときのさよこ叔母の弁。

 そんなこんなで、しよりと俺たちは、同じ屋根の下、まるで姉弟のように育ったのだ。

 さよこ叔母兄妹の祖父、俺たちにとってはひいじいさまが建てた、古い和洋折衷の洋館。

 時代かかった箱庭のなかで、俺たちは俺たちなりに、しあわせに暮らしていた。

 16歳の誕生日を迎える、直前まで。

 ――馨也が、事故に遭うその瞬間まで。