「どうした?」

「まあ、寝てばっかりのナマケモノに、云いたいことは多々あるけど。

 取り敢えず……コウがこの家にいるの、久しぶりだなって」

 曖昧に、痛みをこらえるような顔で、しよりが微笑む。

「そうだな……」

 言葉に誘われるように、ぐるりと部屋を見渡す。

 畳にむりやり置かれたベットと、砂壁に合わないスチールの机がちょっとちぐはぐな印象を醸し出している。

 古式ゆかしい和室を、無理に洋室として使おうとする努力が涙ぐましい八畳間だ。

 色あせた映画のポスターが張られた襖の向こうには、同じ広さの部屋がもうひとつ。

 ただしこちらは、やや乙女チックな壁紙が痛いものの、板張りの洋室。

 ジャンケンで負けた俺が和室。勝ったあいつが洋室。

 ケンカのネタにもなった部屋なのに、いまはもう、どちらも主はいない。

 一年ぶりの『自分の部屋』は、まるで他人のようなよそよそしさで、俺を拒絶した。