「なんだか、笑顔さぁびす、しすぎじゃないですかぁ?」

 カウンター前のスペースに戻ると、穂波が微妙にむくれている。

「笑顔禁止です! 客商売は仏頂面で! 

 お客様と馴れ合ってはいけません!」

 穂波お得意の、無茶苦茶な理屈。

 そんなことあるもないも返事するのがアホらしくて、とりあえず奴のくるくる頭をひとつ、叩いておく。 

「香也くん、穂波、休憩に入ってどうぞ。お疲れ様」

 かっこいい格好がどこか変装じみた穂波よりも、はるかにギャルソン姿がはまったミキさんが、ねぎらいの言葉ををかけてくれる。

 その、繰り返し。

 意外と、俺のバイト生活はうまく行っていた。

 ――1点を、のぞいては。