「コウヤくん」

 すっ、と穂波が、手を延ばしてくる。

 冷たい指が、手の甲に触れた。

「手、つないでもいいですか?」

 改めて訊かれると、なんだか照れくさい。

 無言で、俺は穂波の手を握り返した。

 肌が薄く、骨が細く、華奢なつくりの手は、穂波が少女で、俺とは違う生き物なんだと思い出させる。

 自分よりも弱いものを守りたいと感じるのは、俺の意思を離れた横暴な本能だ。

「あたしが傍にいることを、『普通のこと』にしてくださいね」

 くりくりとした瞳で、穂波が俺を見上げる。

「あなたの隣りにあたしがいるのも、あたしの隣りにあなたがいるのも。

 空気みたいに当たり前のことにしてくれるよう、あたし、いま絶賛キャンペーン中なんです」

 ふっ、と滲むように、穂波が微笑む。

「大好きです、コウヤくん」

 穂波お得意の、不純物ゼロで煮詰められた、無条件の好意。

 甘い声を聞きながら、俺ははじめて、不思議に思った。

 それはまぬけすぎるほど、いまさらな疑問。

 ――『穂波は、なぜ、俺を好きだと云うんだろう』って。