「あの、弟」

「ああ、海樹(かいじゅ)。

 かわいいでしょ! あたしに似て」

 おそらく、本人が聞いたら憤死するだろうなあ、と気の毒に思わなくもない。

 確かに、穂波の弟・海樹は、穂波と同じ系統の、あどけない顔立ちをしていた。

 その甘い容姿が台無しの、えらい勢いで俺をにらんでいたけれど。

「仲いいの? あの弟」

「もちろん!

 この美貌と知性兼ね揃えた姉を、嫌う弟なんておりません!」

 鈍感な姉は、鈍感な分だけ力強く弟の愛情を受け合う。

「ああ、そりゃあよかったな」

 たぶん、穂波の想像以上に、穂波は海樹に愛しまくられている。

 目でひとを殺せるものなら、たぶん俺はいまごろ、海樹にミンチにされているだろう。

 別に嫌いじゃない。

 そういう、傾きすぎた情ってやつも。