しよりに引きずられながら到着した目的地には、すでに先客がいた。

 年齢の読めない、ふっくらとした頬の女性。

 いかにも高そうな漆黒の装いが、やわらかく整った顔立ちを、寂しげに縁取る。

「お待たせしました」

 俺はきちんと踵をそろえ、かっちり四十五度、腰を折る。

「やめてちょうだいな。

 しよりがまた、なにか云ったのかしら?

 こちらが早く来すぎただけよ」

 彼女はやわやわと、手を振る。

 改めて、という風に、俺の顔をのぞきこんだ。

「久しぶりね、コウくん。元気にしていた?」

「もちろん。お久し振りです、さよこさん」

 ありきたりな挨拶が済んでしまうと、ふっ、と三人の間に沈黙が落ちた。