「そもそも、なんでオンナに手料理をふるまってやらなきゃなんねえんだよ」

 皿を洗いつつの悪態は、せめてもの抵抗。

「あ、男尊女卑です!」

 濡れたカップを拭きながら、ぴっ、と穂波がわざとらしく眉をひそめる。

「女子が料理をつくって当然! という偏見は愉しくありません」

「オンナの上等手段みてえな手作り弁当をかますくせに」

「だから!

 つくってあげるのも愉しい。

 つくってもらうのも愉しい。

 愉しみはお互いわけあいましょ?」

 『ね?』と小首を傾げる穂波は、ふてぶてしい中身を差っ引いてもかわいい。

 くやしながら、ダマされるしかない。


 雨が降り続いて、一週間と少し。

 穂波が傍にいることに、俺は慣れはじめていた。