「コウヤくーん。お昼しませんかあ?」

 ふわふわ、ほわほわ。

 ゆる巻きした髪を揺らしながら、おしかけ彼女・辻穂波(つじほなみ)が教室をのぞきにきた。

 ちなみに、歴史的穂波宣言の宣誓場所は、2-2HR。つまりこの教室。

 穂波の姿を見るたびに、周囲の人間はくすくす、がやがやしていたり、する。

 俺にとっては、ちょっと――いやかなり、恥ずかしい。

「ねーねー、コウヤくーん」

 穂波は甲高い声で繰り返す。返事が返るまで繰り出し続ける。

 マシュマロめいた可愛らしい顔立ちとは裏腹に、奴はなかなかの根性有りさんだ。俺が応じるまで、一日だって喚き続ける。

「わかった。わかったからちょっと待て!」

「今日はあたしの愛妻弁当です! お財布はいりません! むしろ却下! 死して屍拾うものなしと知れって感じです!」

 高らかに意味不明宣言をする。

 周りの、『おー!』という勇者への賞賛の声。それに片手で応える勇者・穂波。

 いつものことすぎて、頭痛も超えた。

「わかった。ほら行くぞ」

 意外となで心地のいい頭をひとたたきして、俺も席を立った。