片手でやわらかい前髪をはらい、白い額に顔を近付ける。

「ほえ…?」

 一瞬だけ、唇が触れた。

 離れて眺めれば、穂波はぽかんと、バカみたいに口を開いている。

「前払い」

 うそぶいたら、無性に恥ずかしくなる。

 財布を握って、立ち上がった。

「なんか飲み物買ってくる。ご希望は?」

 穂波は額に両手を当てて、呆然としたまま。

 勝った! と変な満足感にひたりつつ、俺は教室を出る。

「コウヤくん!」

 戸に手をかけたところで、穂波が叫ぶ。

「追試、受かったらこっちでお願いします!」

 真っ赤な顔のまま、指差したのはぎゅっと引き結んだ唇。

 ――無理しちゃってさ。

 突っ込みは口にせず、俺はにやつきながら、ひらひら片手を振った。

「おう、合格点のダブルスコア出したら、舌だって入れてやるよ」

 きしみながら、閉まった戸。

 内側から聞こえた声が、化鳥を締め殺したようなブサイクなものだったことは、秘密にしておく。