「数学反対! あたしはここに、文系の道を行くことを誓います!」

 教室の隅、窓際の席を占拠しての雄叫びだ。

 ――ああ、キレたな。

 冷め切った俺に気付かず、穂波はやけくそで、いちごポッキーを食らいはじめる。

 バリバリとポッキーをかみ砕く穂波の姿に、俺の感想はひとつ。

「で?」

 俺は淡々と穂波に訊ねた。

「『で?』って……冷たいですう」

「そうか? んで?」

 穂波の甘ったるい声を無視して、機械的に繰り返す。

「うぅ……だって、そもそも数式をいじくりまわしたからなんだって云うんですか。四則計算で充分。あたしの人生にxもyも不要です!」

「まあ社会に出たら、そうかもな」

「でしょう!」

 俺のゆるいうなずきに、穂波が乗り出してくる。

 すかさず、俺は奴の額にでこピンをかました。

「にゃッ!?」

「ばかたれ」

 一刀両断のついでに、机をひと叩き。

「それ以前に! 再追試まで落として、どうやって社会に出るつもりだ。このままだと、お前は一生高校一年生だぞ」

 穂波の腕に避けられていた、哀れな数字Ⅰの教科書を引き寄せる。

 濡れた犬みたいな情けない顔で、穂波が上目遣いに俺を見る。

「取り敢えず……どこからだ?」

 えらくぴかぴか、新品同様のページに、ついつい溜め息が出た。

 ――定期考査が終わって、ちょうど一週間。

 穂波の試験期間は、なぜかまだまだ真っ盛りだった。