「穂波」

「なんでしょう?」

 やわらかな髪をひとつに纏めた穂波の背中は、しゃんと伸びている。

 仕事モードの穂波。

 でも俺は、こいつとこの店でしか会ったことがない。

 ――外で会うこいつは、どんなガキなのかな。

 ささやかな興味が、寄せては消えていく。

「なんで、毎回ハナシ、聞いてくれんの?」

 しよりのノロケとへたれまみれの俺の話は、自分でもかなりうっとうしい。

 なのに、穂波は顔をしかめながら、きちんと聞いてツッコミまで入れてくれる。

 これがカフェの店員の心得だとしたら、俺は尊敬するし――同時に、かなりガッカリするだろう。