ノック代わりの蹴りひとつで、襖が開く。

「キョウ! 風呂、空いた」

 ぐしゃぐしゃと濡れた髪をタオルでかきまぜながら、コウが部屋に入ってきた。

 畳にうつぶせに寝転がっていた俺は、ぺちぺち、と畳を手のひらで二回連打。

 とりあえず『了解』の意を示す。

「おまえ、なんで自分の部屋で転がらねえんだよ。邪魔」

 確かに、襖の向こう側は熾烈な兄弟ゲンカの末に勝ち取った洋室だ。

 でも、頬に触れる畳の感触も、捨てがたい。

「だって、畳が好きなんだもん」

「じゃあ、部屋替えてやる」

 速攻、コウが云ってくるのも、予想済み。

 俺はべ~っと、あっかんべをしてやった。

「やだよ。畳にベッド、だせえ」

 憎まれ口の返礼は、早業の蹴りと怒鳴り声。

「畳が好きだと云ったろが!」

「ンげッ」

 無防備な背中を容赦なく、コウのバカでかい足に踏み付けられた。