「菅坂氏が、好きなの?」

 キョウをほとんど知らない貴子さんが云う『菅坂』⇒コウのこと。

 貴子さんがそう呼ぶたびに、不思議な気分になる。

 こうやって、『キョウ』がいなくなるんだって、ほろ苦い実感が募ってく。

「好きよ」

 即答できる。

 でも、貴子さんはあたしの回答を鼻で笑った。

「でも、『好き』じゃないのよね?」

 こっくり、子供みたいに小さく、うなずく。

 貴子さんの綺麗に磨かれた爪が、カップの縁をなでる。

「菅坂弟が、好きだったの?」