「あの先生。仲いいの?」

 ペースを崩されたまま、浅くソファに腰を下ろす。

 曇った流し台に背中を預け、穂波がいたずらっぽい笑みを見せた。

「コウヤくん、地学取ってないんですか?」

「ない」

 きっぱりと答えてから、ふと、去年はどうだったかと迷う。

 ぼんやりと、自分と周囲を渦巻く嵐にもまれて過ごした一年は、記憶もおぼろげだ。

 つくづく、よく進級できたものだと思う。

「地学のせんせの名前は、辻孝之といいます」

「辻?」

「そう。あたしのおとーさんのおねーさんのいもーとのおとーとです」

「…くどい。つまり叔父さんってわけか」

「はい。ちなみに、成田離婚は本当のコトですよ」

 穂波は缶ジュースを飲み干して、空き缶をゴミ箱に放り投げた。

 ぽーんと、薄暗さと白っぽいひかりのコントラストのなか、缶が綺麗な放物線を描いた。