『なんのために、こんな話を聞いているのだろう』、と思う。

 もう存在しない人間の、そのまた過去の話。

 穂波が懐かしそうに、つたなく紡ぐ物語は、まるで他人のことのようだ。

 穂波が、そんな風に優しく、他人の話をする。

 なんだか、無性に苛立った。

「もう……」

 ――いいよ。

 なにを聞いたって変えられない。

 俺は、穂波を許さない。

 俺を――馨也の代わりにしようとした、穂波を許さない。

 それは俺が自分に架した、俺のためのルールだから。