「待てよ」

 喉から押し出した声は、ひどく掠れていた。

 『普通』に存在する、『いままでどおり』の穂波。

 弱った体に心地よくて、このまま甘えて『病人』の役割を演じ続けたい。

 でも、そんな都合のよい話、風邪をひいてアホになったアタマでだって、おかしいとわかる。

「なんで、お前、ここにいるんだ?」

「コウヤくんを、看病するために」

 結ばれたやわらかい髪を、細い指がゆっくりとほどく。

 振り返ったときには、すでに臨戦態勢。

 くるり、と制服の裾をひるがえして、穂波はちょっと、意地の悪い笑みを浮かべた。