「絶対、辻の野郎のせいだ……」

 生徒にバケツの水をぶっかけた非常識な教師の顔を思い浮かべ、恨みの言葉を吐く。

「風邪くらい、寝てりゃあ、治るよな」

 健康な男子高生の独り暮らしに、『薬の買い置き』という単語はない。

 空っぽの救急箱のなかに、体温計があったこと自体、奇跡みたいなものだ。

「寝てりゃ、治る……」

 もう一度自分に云いきかせて、俺は目を閉じた。