『好き』だとか。

 『嫌い』だとか。



 みっともなく慌てて、振り回されて――ダマされて。そんなマヌケな自分なんて、知りたくもなかった。



 思えば俺は、1年前の夏まで、『俺』がどんな生き物かなんて、考えたことがなかった気がする。

 隣りに同じ輪郭の『俺』――馨也がいて、いいも悪いも嫉妬も愛情もなにもかも、そこから差し引きすればOK。

 真っ平らな場所で、ゼロから気持ちを組み上げたことなんて、ない。

 つまり、こんな云い方が許されるなら。

 馨也が死んで、『俺』が生まれた。



 そして、恋をした。