「コウヤ、くん」

 甘い声。

 細い腕。

 潤んだ瞳。

 ――知らないオンナ。

「……ッ」

 奥歯で噛み潰したのか罵声か、それとも他の衝動か、それさえもわからなかった。

 ただ、とっさにアタマを駆け巡ったのは、自分で繰り返した暗示。

 ――知らないオンナ、だから!

 無言で、強張る彼女の横をすり抜ける。

「コウヤくん! 待って!」

 悲鳴にも似た彼女の声。

 振り切って、俺は薄暗い廊下を走り出した。