『許す』『許さない』と騒ぐのは、なけなしのプライドが許さない。

 だから代わりに、全部忘れる。

 馨也のことを黙って、近付いたことも。

 馨也のスペアとして、俺を扱ったことも。

 ――好きだと、嘘を繰り返したことも。

 あんなヤツなんか、アタマの片隅にさえ置いてやらない。

「俺は、『辻穂波』なんてオンナ、なにひとつ知らない」

 そのまま、ドアを軋ませながら開ける。

「あ……」

 目の高さに、やわらかい髪。ゆるいウェーブがふわふわ、揺れる。

 真ん丸な瞳をさらに見開いて、華奢な身体をこころもち引き気味にして、小柄なオンナがひとり、そこに立っていた。