ひるんだ隙に、縁の欠けたマグカップが突き出された。

「まあ、飲め」

 なみなみと注がれた黒い液体をコーヒーと安心するには、この部屋は汚すぎる。

「……ミルクは?」

「贅沢なお子様だなあ。ほれ」

 冷蔵庫から取り出されたのは、なぜか紙パックではなくビーカー入り。

 しかもややとろみをおびた沈殿物が沈んでいるのは、気のせいか。

「やっぱりいいです」

 断ると、辻はやけにあっさり引っ込める。

 と思ったら、自分のカップの方には、購買で買ったとおぼしき紙パックの中身を注ぎ始めた。

「……先生、さっきのと、それの違いは?」

「ああ、さっきのは俺が丹精込めて育てたヨーグルト茸。

 ヨーグルト茸、知ってるか?

 十年くらい前に流行ったヤツ。

 いま、俺のなかでリバイバルブームなんだよなあ」

 ――しれっと云うことかよ、それ!?

「……もういいです」

 俺はすっかり飲む気のうせたカップを、手近な『山』の上に置いた。