――びしゃん!

 耳元に、弾ける音が叩き付けられた。

 アタマの先から爪先まで。ついでに、立っている地面も。

 俺は、ずっぷり濡れ鼠になっていた。

「なっ……!」

 ――あのクソジジイ、上から水ぶちまけやがった!

 一瞬固まって、次の瞬間に辻を見上げる。

 予想通り、空のバケツをかざしてにやにや笑う、辻の姿があった。

「制服、乾かしていかねえか、菅坂」

 ――こいつ、腐っても……あいつの血縁だ!

 腹立たしいような、懐かしいような。

 奇妙な感傷じみた気持ちを、もてあます。

「辻、先生」

「ん?」

 無造作に用無しのバケツを室内に放り込んだ辻が、今度はタバコを取り出した。

 口の端にくわえて、にやりと笑う。

「他に誰もいねえから、上がって来い」