夏のなごりが、カレンダーを1枚、ぺらっとめくるだけで消える気がするのは、なんでだろう。

 それでも、夏の色の褪せた暑さにへきえきしながら、学校まで歩く。

 HRのドアを開けると、夏休みの余韻でふわついているものの、なにひとつ変わらない教室の風景。

「よお、菅坂。ひっさしぶり」

 真っ黒に焦げた五桐に片手をあげて、ゆっくりと教室を見渡す。

 相変わらず埃っぽい空間。

 角が欠けて剥げたタイル。

 くすんだ窓の桟とガラス。

 笑い声をあげる白いシャツの群れ。

 つまんない日常と、つまんない教室。

 情けねえけど、ちょっとほっとした。



 逃げ場が、ないわけじゃないんだって。