「あたしは……」

「もういいよ」

 彼女の言葉を遮って、今度こそ背を向ける。

「俺は、『おまえ』なんか知らない。

 知らない人間がなにしようと、俺には関係ない。

 そういうことなんだろう?

 俺は、『辻穂波』なんてオンナ、知らない」

 云い捨てて――云い逃げて、内扉に入る。

 背中で、ガラス扉が閉まる。

 彼女の顔は、見ない。

 彼女の気配も、引き寄せない。

 いま、初めて、気付いた。

 『とりあえず』なんかじゃ、全然ない。

 ――俺は、穂波を、好きになっていたんだ。