ぱたり、と音とは呼べない気配を、耳が拾った。

 パタパタ、と続けて、もう一度。

 俺は、ふっと視線をさまよわせた。

 さよこ叔母が残していった木の盆のうえには、すっかり冷めてしまった茶。

 その向こう側には――しより。

「しより……?」

 しよりが、泣き声も立てず、泣いていた。

 まばたきもしない瞳から、ぱたぱた、と溢れた透明な滴が頬を伝い、握り込んだ手に落ちている。

 壊れた蛇口みたいに、溢れている。

「しぃ?」

 思わず、昔の呼び方が口からこぼれる。

 盆を押しやってにじりより、ぐしゃぐしゃになった頬に手を伸ばす。

 指先が触れた瞬間――しよりが、動いた。