実家に帰ってきた理由は、ふたつある。

 ひとつは単純に、穂波が出入り自由のマンションにいたくなかったから。

 自分のなかで、穂波の立ち位置は完璧にグレーゾーンだ。

 彼女をどうすればいいのか、なにも知らないままでは決められない。

 そのために――もうひとつ。

「しより」

「なに?」

「【Augasta】ってカフェ、知ってるか? 

 西口の、MORESの脇から飲み屋街抜けて、かなり奥に入ったところにある、ちっちぇえ店」

 ジーンズのポケットから、くしゃくしゃになったショップカードを引きずり出す。

 両手を腰に当てたしよりが、手元をのぞき込んできた。