「……ヤ…ト…?」
気付いたら俺はサアラを抱き締めていた。
気付くのが遅かった。
俺は"ココ"の人間じゃない。
昔の記憶もない。
だから他人に興味がなかった。
だけど。
サアラは別だった。
いつも俺の中に入ってきて。
気付けばサアラのペース。
サアラからは目が離せなかった。
居なくなるって聞いた時、一瞬心が潰された。
しかもマサキだけ知っている、その事実に悔しさも覚えた。
迷惑だったのに…気付けば俺の世界に色を付けていたのはサアラだった。
「行くな。」
止める権利はない…のに思わず言葉にしていた。
俺は記憶がないうちに本当は大切な人を泣かせているかもしれない。
それを思い出した時、今度はサアラを泣かせるかもしれない。
サアラにだって…
時空を越えて追い駆けるほど大切な奴がいる。
マサキに聞いたけれど、このまま"ココ"にいるとサアラがそいつの事を忘れてしまう。
それでも…
「"ココ"にいてほしい。俺は、お前を忘れたくない。」
エゴだと思う。
それでも。
サアラの泣き顔は見たくない。
サアラの苦しむ顔は見たくない。
サアラに哀しい顔はさせたくない。
どこかでそんな顔をしているかと想うと、俺はサアラを忘れられない。
そのまま、しばらく星だけが瞬いて、音が無くなった。
サアラは何も言わない。
だけど、逃げもしなかった。
長い沈黙の後…
「どうしていつも星月夜なんだろう…?」
急にサアラが呟いた。
消えそうな、泣きそうな声。
それなのにちょっと悔しそうな声で。