夕暮れ時である泉のほとり。中国の山村。
遠くに雪を冠した山脈が見える。
仙人を真ん中に上手に赤いスカーフをまいた
女の子と下手に男の子が座っている。

(女の子)「おじいちゃん今日のお話は何なの?」

仙人ゆっくりと立ち上がり、
(仙人)「今日はな、この泉の物語じゃ。この泉は
不思議な泉でな、あの高い山なみからの地下の水脈
とつながってて、絶対に潜ってはいかんと昔から
言われておるのじゃ」

男の子立ち上がる。
(男の子)「でも潜った人はいるんでしょう?」
(仙人)「ああ何人かはな。わしの知る限りでは
数年前に二人が飛び込んだということを聞いた」

(男女の子)「ほんと?」
(仙人)「その昔にも飛び込んだものは結構
おるかも知れんな」

(男の子)「この紅衛兵の時代になって、そんな
ことは絶対ないと思う」
(女の子)「どうして飛び込んじゃったのかしら?」

(仙人)「それはいろんなことがあるのさ。時代が変わり
人の心が変わったように見えても、昔からちっとも変わらん
ものもあるのじゃ。あの大空やあの山々の峰のようにな」

(女の子)「その人たち死んじゃったの?」
(仙人)「それがな、不思議な泉のことじゃて、
死んだかどうじゃかよう分からんのじゃ」

(男の子)「飛び込んだら死んだに決まっている」
(仙人)「そうだ。飛び込んだら最期、どこかの地下水脈
の流れに飲み込まれてしもうて、もう助からんじゃろう」