「デートの邪魔したのだけはわざとじゃねぇぞ。でも、お前なら、この子の無実を信じるだろうって。それで、あの学校に連れて行った」

加原が訝しげに、眉を寄せる。


「犯罪をいくつも犯すのにな。警察官っつうのは、実にやりやすいもんだ。情報操作もできる、まず怪しまれることもない」

背中越しに聞こえた声にはほんのりと達成感が滲み出ていて、名波は背筋が寒くなった。
その時になってようやく、安本の目的に気がついたのだ。


安本は、名波の代わりに復讐している。
名波を陥れた人間を、名波の知らないところで、名波の手を汚すことなく、一人ずつ抹殺していたのだ。


そして復讐の相手はまだ一人、残っている。


名波の近くから、ナイフがすっと離れていく。
加原が、息を呑んだ。
安本の手が、名波の背中を押した。


「離れてろよ、汚れるから」


残るは、名波に無実の罪を着せた、警察――。

安本の代理復讐は、彼自身の死で、完結するのだ。