加原は、携帯電話を持った手を、降ろした。
それによって、つー、つー、という電子音が、フェードアウトしていく。

安本の家を出て、車を停めてあるコインパーキングへ戻ってきてから、もう名波への電話は四回目だった。

「なんで出ないんだよ……」

電話に出ない、という行動が、まるで名波の自白に思える。
考えすぎだとはわかっているが、不安でしかたがないのだ。
疚しいところがないならどうか、と祈るような気持ちでかけた四回目の発信を、加原は泣きたい思いで切った。

加原は、ゆるゆると頭を振って、考える。

昨日の今日で、自分とは話したくないだけかもしれない。

それに、運転免許も自転車も持っていない名波の交通手段は、主にバスや市電だ。
彼女なら、例え自分以外に誰も乗客がいなかったとしても、バスに乗っている時の着信には出ないだろう。

そうであってほしい。

そんな思いで、加原はメールの作成画面を開いた。