「さっ、待たせたな、真沙美。行こう」
「えっ?もういいの?」
私に背を向け、左之は階段を降り始めた。
「いいんだ。話したいことは話した。縁があったらまた会えるさ」
振り向きにっこりと笑い、ゆっくりとまた階段を降りた。
「そう」
私はもう一度だけ近藤さんの方にお辞儀をして、左之の後ろ姿を追いかけた。
柔らかい、心地好い風が私たちを追い越していった。
「左之、来て良かった?」
「あぁ、ありがとう。少し胸のつかえが取れた」
そう言いながら、胸のあたりをおさえていた。嬉しそうにはにかむ顔を見て、私もつられて笑顔になった。
「良かった。じゃあ、行く?」
「あぁ、行こう」
晴れ晴れした顔で左之はまっすぐ前を見た。



