「あれ…、矢野くんだ」
「矢野くんだ、じゃねえよ。ばーか」
薄く笑うと、矢野くんは
あたしの手に握られた車の鍵で
ロックを開け、あたしの分と、
自分の分の旅行用の鞄を
後ろに積んでくれた。
「あ、ごめ…っ」
「いいって。早く出ようぜ」
矢野くんは助手席に乗ると、
手慣れた感じでシートベルトを
しめ、少しシートを倒した。
「何で、ここにいたの?」
「お前絶対遅れると思ったし」
あたしは、冷や汗をかきながら
ナビをセットする。
「ごめ、」
「後、早く会いたかったから」
ナビを触るあたしの手まで、
少し汗をかいている。
「ゆっくりでいいから。慌てんな」
「ん、気をつける」
最近、学校の補習と仕事に
おわれていて、なかなか
矢野くんに会えなかった
あたしは、もちろん
矢野くん不足なわけで。
手を伸ばせばそこに、
矢野くんがいることが
嬉しくてたまらない。


