「いねぇよ」 動揺もしなかった。 だって経緯が見えていたから。 「そうなんだ。残念だね」 「だからくれって」 何だか今日の矢野くんは、 いつもと違う。 「俺さ、」 次に紡がれる言葉に、 息を呑む。 「今好きな女いんだわ」 どん底に落ちた気分だ。 彼にはもう、 好きな人がいる。 「じゃあその人にお願いしなさいよ」 そう言って矢野くんを見る。 勝手に負けたくない、と。 そう思ってしまった。 だけど矢野くんは。 楽しそうに、鼻で笑う。